トランスサイレチンアミロイドーシス
[Transthyretin Amyloidosis. Includes: Familial Amyloid Cardiomyopathy, Familial Amyloid Polyneuropathy Type I (Portuguese-Swedish-Japanese Type), Familial Amyloid Polyneuropathy Type II (Indiana/Swiss or Maryland/German Type), Leptomeningeal Amyloidosis, Familial Oculoleptomeningeal Amyloidosis (FOLMA)]
Gene Review著者: Yoshiki Sekijima, MD, PhD, Kunihiro Yoshida, MD, PhD, Takahiko Tokuda, MD, PhD, Shu-Ichi Ikeda, MD, PhD
日本語訳者: 関島良樹(信州大学医学部附属病院遺伝子診療)
Gene Review 最終更新日: 2006.3.15. 日本語訳最終更新日: 2006.6.1.
原文 Transthyretin Amyloidosis
要約
疾患の特徴
トランスサイレチン (TTR) アミロイドーシスの特徴的な臨床症状は,緩徐進行性の感覚運動性ニューロパチー,自律神経障害,腎障害,心筋障害,硝子体混濁,中枢神経障害である.発症年齢は,20歳代〜30歳代が一般的であるが,より高齢で発症する場合も多い.典型的には,下肢遠位部の異常感覚や感覚低下で発症し,2〜3年の間に運動障害が続発する.起立性低血圧,交代性の便秘・下痢,悪心・嘔吐発作,胃蠕動の低下,陰萎,無汗症,尿閉,失禁などの自律神経障害も初発症状となりうる.心アミロイドーシスは進行性の心筋症の臨床像を呈する.髄膜アミロイドーシスでは,認知機能障害,精神症状,視力障害,頭痛,けいれん,運動麻痺,失調,脊髄障害,水頭症,頭蓋内出血などの中枢神経症状を呈する.
診断・検査
通常,TTRアミロイドーシスの診断は,コンゴレッド染色で生検組織へのアミロイド沈着を証明すること(コンゴレッド染色で陰性の場合は抗TTR抗体を用いた免疫染色でTTRの沈着を証明),または質量分析で血清中の変異TTRタンパクを検出することによりなされる.しかし,TTR遺伝子は4つのエクソンのみから構成されており,これまでに報告されている変異は全てエクソン2, 3, 4に存在しているため,TTR遺伝子全領域の遺伝子検査も可能である.遺伝子のシーケンスにより99%以上の病原性(アミロイド原性)の変異を検出できる.遺伝子検査は生検に比べて侵襲性が低く,診断の感度が高い.
臨床的マネジメント
アミロイド沈着による手根管症候群に対しては手根管解放術が,硝子体混濁に対しては硝子体切除術が有効である.末梢神経障害に対しては肝移植が唯一の有効な治療である.肝移植療法が推奨される患者は(1)50歳未満,(2)発症から5年以内,(3)末梢神経障害が下肢に限局しているか自律神経障害のみ,(4)明らかな心障害・腎障害を認めない,である.発症者の定期的な検査としては,末梢神経障害のモニターの目的で神経伝導速度が行われる.患者のTTR遺伝子の変異が同定されている場合,発症のリスクのある家族の分子遺伝学的検査は早期診断および治療を可能にする.遺伝子変異が不明の場合,臨床的な評価により早期治療が可能となる.
遺伝カウンセリング
トランスサイレチンアミロイドーシスは常染色体優性の遺伝性疾患である.発端者の約1/3は親からの遺伝であり,約2/3は新生突然変異によりアミロイドーシスを発症する.患者が変異TTR遺伝子のヘテロ接合体の場合,子供は50%の確率でTTR遺伝子の変異を受け継ぐ.患者がホモ接合体の場合,(1)同胞は50%の確率で1つのTTR遺伝子の変異を受け継ぎ,25%の確率で2つのTTR遺伝子の変異を受け継ぐ.(2)全ての子供はTTR遺伝子の変異を受け継ぐ.家系内の患者の遺伝子変異が同定されている場合,50%のリスクを有する胎児の出生前診断は可能である.しかし,TTRアミロイドーシスのように成人発症で知的障害を伴わず,治療も存在する疾患に対して出生前診断を求められることは通常ない.
診断
臨床診断
緩徐進行性の感覚運動性ニューロパチーおよび自律神経障害を呈する成人例ではトランスサイレチンアミロイドーシスが疑われる.心伝導ブロック,心筋症,腎障害,硝子体混濁の合併頻度も高い.常染色体優性の家族歴は本症の診断を示唆する.
検査
組織生検
組織におけるアミロイド沈着は生検組織のコンゴレッド染色で検出可能である.コンゴレッド染色を偏光顕微鏡で観察すると,沈着したアミロイドは特徴的なエメラルドグリーンの複屈折を示す.生検に適する組織は,腹壁皮下脂肪,皮膚,胃粘膜,直腸粘膜,腓腹神経,および手根管解放術の際に得られた腱周囲の脂肪組織である.胃腸粘膜の内視鏡的生検の感度は約85%である.腓腹神経へのアミロイド沈着は斑状のことが多いので,腓腹神経生検の感度は胃腸粘膜の内視鏡的生検よりも劣る.
血清中変異TTRタンパク
TTRタンパクは四量体構造とった可溶性のタンパクとして血清中を循環している.TTRの血清中濃度は20-40 mg/dL (0.20-0.40 g/mL)である.病原性を有するTTR遺伝子変異はTTRタンパクの高次構造の変化をきたし,TTR四量体構造の安定性を低下させ,アミロイドを形成し易い単量体への解離へと導く.トランスサイレチンアミロイドーシスの患者および健常者の血清中には少量(0.28-0.56μ g/mL)のTTR単量体が検出される.血清中のTTRを抗TTR抗体で免疫沈降することにより,血清中の変異TTRタンパクを質量分析で検出することが可能である.これまでに報告された変異TTRの約90%が質量分析で同定される.しかし,TTRタンパクは非常に多くの翻訳後修飾を受けるので,これにより野生型TTRおよび変異TTRの分子量の変化が起こることに注意が必要である.それぞれの変異TTRと野生型TTRとの分子量の差はConnorsらの総説に記載されている. 分子遺伝学的検査
遺伝子 TTR遺伝子がTTRアミロイドーシスに関連する唯一の遺伝子である.
分子遺伝学的検査:臨床的利用
分子遺伝学的検査:臨床的検査法
- 特定の遺伝子変異の解析 最も頻度の高い遺伝子変異であるV30M変異は,様々な人種の多くの家系で同定されている.この変異はPCR-RFLP法により,簡便に同定可能である.
- シーケンス解析 TTR遺伝子は4つのエクソンのみから構成されており,更にこれまでに報告されている全ての変異はエクソン2, 3, 4に存在しているので,全TTR遺伝子のシーケンス解析を効率的に施行することが可能である.ダイレクトシーケンスにより99%以上の病原性(アミロイド原性)の変異を検出することができる.
表1 TTRアミロイドーシスで用いられる分子遺伝学的検査
検査方法 | 検出される変異 | 変異検出率 | 検査の有用性 |
標的変異解析 | V30M変異 | 不明 | 臨床的に有用 |
シーケンス解析 | 全てのTTR遺伝子変異 | > 99% | 臨床的に有用 |
検査結果の解釈 略
発端者に対する検査のストラテジー
通常,TTRアミロイドーシスの診断は,1)コンゴレッド染色による生検組織のアミロイド沈着の証明(コンゴレッド陰性の場合は免疫組織検査),2)生検組織の免疫組織染色によるアミロイドタンパクの同定,3)質量分析による血清中の変異TTRタンパクの検出,によりなされる.しかし,TTR遺伝子の分子遺伝学的検査は,他の検査に比べて侵襲性が低く,診断の感度が高い.
遺伝子レベルでの関連疾患
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