2012年4月4日水曜日

麻酔科・痛みセンター | 東京大学医学部附属病院


 

麻酔科・痛みセンターは2つの名前が併記されていますが、1つの診療科です。麻酔のための特別なトレーニングを積んだ麻酔科医が、曜日によって手術室あるいは外来にでています。手術室では「手術のための麻酔」、外来では「痛みの治療」や「手術前の診察」を行っています。
麻酔には、全身麻酔と局所麻酔があります。全身麻酔は大脳に薬を作用させて、意識を無くし痛みを感じないようにします。局所麻酔は手術部位の神経を局所麻酔薬で麻痺させて、痛みを感じないようにします。外来の麻酔科・痛みセンターでは、局所麻酔と薬物療法を痛みの治療に応用しています。
また、麻酔科医は手術中に循環管理や呼吸管理をすることから、集中治療室でも活躍しています。一方、外来での痛みの治療は、緩和ケアにおける痛みのコントロールに非常に役立ちます。緩和ケア病棟でも麻酔科医の知識と経験が生かされています。
ここでは、手術室における麻酔と、外来の痛みセンターにおける痛みの治療について、さらに詳しくご説明致します。

麻酔科・痛みセンターの医師が果たす役割は大きく分けて二つあります。一つは手術室での手術麻酔管理で、もう一つは麻酔科・痛みセンター外来および病棟での痛みに対する治療です。

手術室
手術を受ける患者さんにとって麻酔は絶対不可欠です。麻酔無しに手術を受けられることはありえません。また、麻酔科医は麻酔をかけるだけではなく、刻一刻とかわる患者さんの状態を把握し、手術室にいる全員(外科医、看護師、臨床工学技士)とコミュニケーションをとって、患者さんに最適な医療を提供するためのカギとなる存在です。

A: 麻酔とは?
麻酔を構成する要素は、鎮痛(痛みをとる)・鎮静(眠らせる)・不動化(動かなくする)・有害神経反射の防止(手術中に起こりうる体に有害な神経の異常な反応を防ぐ)の4つです。
麻酔方法としては、全身麻酔・硬膜外麻酔・クモ膜下脊髄麻酔・その他の各種神経ブロック(腕神経叢ブロック、閉鎖神経ブロック、局所浸潤麻酔など)があり、お受けになる手術の内容と患者さんがかかえていらっしゃる合併症(お受けになる手術の対象疾患以外の病気)を総合的に判断して、安全かつ確実であると考えられる麻酔方法が選択されます。選択される麻酔方法は1種類のこともあれば、複数の麻酔方法の組み合わせであることもあります。


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B: 手術麻酔管理とは?
手術をお受けになる患者さんに対し適切な麻酔方法を提供するとともに、全身管理を行うことを意味します。全身管理とは、呼吸・循環・代謝などの重要な生理的活動が、手術中に損なわれることのないように管理することを言います。この全身管理のために、手術中は様々な生体監視モニターが使用されます。代表的なものが、心電図・血圧計・経皮的酸素飽和度計などの非侵襲的モニターです。患者さんの状態によっては厳密な全身管理が必要な場合があり、状況に応じて、観血的動脈圧測定・中心静脈圧測定・肺動脈圧測定などの侵襲的モニターや、経食道心エコー・脳波測定などの特殊な検査装置が用いられます。これらのモニターからの情報を総合的に判断した上で、麻酔科医は輸液、輸血を行ったり、様々な薬剤を投与した� �して、患者さんをできる限り安定した状態に保ちます。得られた情報を外科医と共有し、患者さんにとって最善の方針を検討することも麻酔科医の重要な役割です。当科医師は多くのモニターを必要とする複雑で困難な麻酔に慣れており、様々な病気を持つ患者さん、大きな手術を受ける患者さんも安心して全身管理を任せることができます。

C: 全身麻酔
全身麻酔薬は脳に作用して鎮痛・鎮静・不動化などの効果を発揮します。吸入麻酔薬といわれるものと、静脈麻酔薬といわれるものにわけられます。吸入麻酔薬は、呼吸を介して肺から体内に入りますが、静脈麻酔薬は点滴から体内に入ります。

D: 硬膜外麻酔
脊髄を包む硬膜という膜があり、この硬膜の外側にあるスペースが硬膜外腔といわれます。この硬膜外腔に局所麻酔薬や麻薬などの鎮痛薬を注入し、痛みを感じなくさせる麻酔方法が硬膜外麻酔です。手術中のみならず手術後の鎮痛方法としても用いられます。

E: クモ膜下脊髄麻酔
以前は脊椎麻酔あるいは腰椎麻酔といわれていた麻酔方法です。一般には下半身麻酔ともいわれます。脊髄神経の近くまで針を刺入し、局所麻酔薬を注入することで痛みを感じなくさせます。


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麻酔科・痛みセンター外来および病棟
A: 痛みに対する治療に関して
患者さんが訴えられる痛みの種類や原因は様々なものがあります。痛みによって日常生活に支障をきたしたり、精神的悪影響が生じたりすることも稀ではありません。痛みを起こしている原因疾患を治療することが重要であることはもちろんですが、痛みを軽減させることにより通常の生活を取り戻すことも大変重要です。
痛みをとる手法としては、神経ブロック・レーザー治療・薬物療法(飲み薬による治療)が一般的なものとして挙げられます。特殊なものとしては、エピドラスコピー・硬膜外電気刺激療法・イオントフォレーシスなどがあります。ペインクリニック外来および病棟では、これらの治療法を用いて患者さんの痛みの緩和に努めています。

B: 麻酔科手術前コンサルタント
手術の対象となる疾患や合併する病気が重篤な患者さんの場合、手術予定日の数日から数週間前に麻酔科専門医が問診や診察を行い、手術日までに必要な検査の追加をお願いすることがあります。このシステムを手術前コンサルトといいます。手術前コンサルトは安全な手術麻酔管理にとって非常に重要なものであり、麻酔科・痛みセンター外来の医師が担当しています。

手術麻酔管理
当然のことではありますが、外科手術の対象となる疾患のすべてが麻酔科医の取り扱う対象疾患となります。
さらに、患者さんがかかえていらっしゃる合併症も麻酔科医の取り扱う対象疾患となります。具体的には、高血圧・不整脈・狭心症・心臓弁膜症などの循環器系疾患、喘息・肺気腫などの呼吸器系疾患、糖尿病などの内分泌・代謝系疾患などが挙げられます。また、麻酔中に様々な薬剤を投与したり処置をしたりするのに関連して、薬や食べ物に対するアレルギーも非常に重要です。

痛みに対する治療
痛みを起こしうる疾患のほとんどすべてが麻酔科・痛みセンター外来および病棟における治療の対象になりえます。代表的なものとしては、癌性疼痛・帯状疱疹後神経痛・末梢血行障害、頚椎症・椎間板ヘルニア・頭痛・三叉神経痛・肩関節周囲炎(五十肩)・腰下肢痛などがあります。また、痛み以外の疾患として、顔面神経麻痺・顔面痙攣・自律神経失調症・多汗症・痙性斜頚なども麻酔科・痛みセンター外来および病棟での対象疾患となります。

手術麻酔関連
【心電図】
心臓の電気的な活動を監視し、不整脈、狭心症・心筋梗塞の発生、血液中の電解質バランス異常などの検出に用います。手術前の心電図検査と基本的に同じですが、手術中ずっと観察しています。


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【血圧計】
一般的な健康診断などで用いられる血圧計とほぼ同じです。手術中は自動血圧計が定期的(2~5分ごと)に血圧を測定します。

【体温計】
手術・麻酔の種類によって異なりますが、食道・直腸・膀胱内などで体温を測定し、体温変化が正常範囲であることを確認します。

【尿量】
おおむね2時間以上かかる手術で尿量をモニターします。患者さんの体内に十分な水分があるか判断するための重要なモニターです。尿道から膀胱までカテーテルを挿入します。全身麻酔の場合は患者さんが眠ってから、クモ膜下麻酔(下半身麻酔)の場合は麻酔が効果を出してからカテーテルを挿入します。

【経皮的酸素飽和度計】
血液中の酸素の量を検出する機械です。指先にクリップ状のものをはめて測定します。

【呼気ガスモニター】
呼吸管理用に全身麻酔中に用います。酸素・二酸化炭素・麻酔ガスの濃度などが測定できます。全身麻酔に用いる人工呼吸器回路につなぐモニターです。

【スパイログラム】
肺機能の評価目的に全身麻酔中に用います。呼気ガスモニターと同じく、全身麻酔に用いる人工呼吸器回路につなぐモニターです。

【筋弛緩モニター】
全身麻酔中に不動化の目的で筋弛緩薬を用いることがあります。投薬量を適切なものとするために神経刺激装置の1種である筋弛緩モニターをもちいます。刺激電極は、前腕・下腿・顔面のいずれかに貼付します。

【動脈圧測定】
手首あるいは足の甲の動脈にカテーテルを挿入し血圧を測定します。心拍毎の血圧が測定できるので、手術中の血圧管理を厳密に行う必要があるときなどに用います。また、術中に頻繁に採血が必要なときは、何度も採血のための針をささなくてよいように、動脈カテーテルを使用します。

【中心静脈圧測定】
頚部あるいはソケイ部の静脈にカテーテルを挿入して心臓の近くの静脈の血圧を測定します。体内の血液量の評価が必要な場合や、心臓に直接作用する強い薬剤を使用するときに用います。ほとんどの場合、全身麻酔で患者さんが眠っている間に挿入されます。

【肺動脈圧測定】
スワンガンツカテーテルといわれるカテーテルを頚部あるいはソケイ部の静脈より挿入し、心臓から肺へ向かう血管の血圧を測定します。心疾患を合併している患者さんの手術麻酔管理などで用いられます。こちらも、患者さんが眠ってから挿入されます。

【経食道心エコー】
口から超音波検査用のプローブ(胃内視鏡検査に使用するものとほぼ同じ形)を挿入し、食道越しに心臓の動きをモニターします。心臓や、大動脈などの大きな血管に問題がある患者さんで使用されます。プローブは患者さんが眠ってから挿入されます。

【BISモニター】
脳波計の一種で手術麻酔管理中の鎮静度の評価に用います。


【脳酸素飽和度モニター】
患者さんの額にレーザー光のプローブを貼り付けてモニターし、脳組織に酸素が十分供給されていることを確認します。心臓手術など特殊な手術の麻酔で使われます。

【経頭蓋脳血流ドップラー】
脳に流れる血液の速度をモニターします。超音波を出すプローブを側頭部に貼り付けます。心臓手術など特殊な手術の麻酔で使われます。

【運動誘発電位】
頭部につけた電極から電気刺激を加え、刺激が脊髄を通って四肢の筋肉を動かす様子をモニターします。脊髄手術、胸腹部大動脈瘤手術など特殊な手術のときに使われます。

痛みの治療関連
【ドラッグチャレンジテスト】
鎮痛薬を少量ずつ点滴で投与し、その効果を判定します。どのカテゴリーの鎮痛薬が有効かをチェックすることにより、痛みの発生メカニズムを推測し、その後の治療法の選択に活用します。テスト後にお体の観察を充分にしなくてはいけませんし、数種類の薬物について検査を行いますので、入院していただく必要があります。

【X線透視】
脊髄神経根ブロック・腹腔神経叢ブロック・三叉神経ブロック・腰部交感神経節ブロックなどの特殊な神経ブロックにおいては、X線を用いて神経ブロック用の針の体内での位置をチェックしながら行います。

【サーモグラム】
体表温度の検査に用います。

【電流知覚閾値検査】
皮膚に微量の電流を流して知覚しうる最小の電流量を測定します。電流知覚閾値の変動により、治療にともなって痛みへの反応性がどのように変化するのか評価できます。また、電流の周波数により、痛みに関わっている神経の種類が推測できます。

痛みに対する治療
光線治療
患部や痛みに関わると推測される神経領域などにレーザー光や近赤外線をあてることで鎮痛をはかります。

鍼治療
水曜日に鍼灸師が麻酔科・痛みセンター外来で鍼治療を行っています。

ボツリヌス療法
ボツリヌス毒素を注射します。顔面痙攀・眼瞼痙攣症・痙性斜頚などが対象疾患となります。

エピドラスコピー
硬膜外の癒着を内視鏡を用いて剥離します。腰や下肢の痛みの治療に用います。手術室で行いますので、入院していただく必要があります。

硬膜外電気刺激療法
硬膜外腔に刺激電極を埋め込み、電気刺激を行うことで鎮痛効果を得る方法です。手術室で刺激電極を硬膜外腔に挿入して1週間ほど有効性のチェックをします。有効であれば送受信機の埋め込みを手術室で行います。入院が必要な治療方法です。



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